第48回四日市人権・同和教育研究大会
< 基 調 提 案 >
1 はじめに
四日市人権・同和教育研究会(四同研)は、1952年の結成以来、部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消を目指し、取り組みを進めてきました。先人が築き上げた「差別の現実から深く学ぶ」という理念と人権尊重の精神を受け継ぎ、現在では200ほどの加盟団体とともに、人権・同和教育のさらなる広がりと深まりを追求しています。
かつて、同和対策審議会答申には「(同和問題の)早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」と明記され、「同和対策事業特別措置法」などの法律によってさまざまな対策事業が実施されました。しかし、これらの法律は財政上の特別措置に関するものであり、部落差別の根本的な解消には至らず、50年以上経った現在でも差別は残されています。
こうした状況の中、2016年に「部落差別の解消の推進に関する法律」(部落差別解消推進法)が公布・施行されました。この法律は、「現在も部落差別が存在することを認め、部落差別は許されないものである」と明記し、その解消を推進することで差別のない社会を目指すことを目的としています。
しかし、2024年度の四日市市民人権意識調査によると、この法律について「詳しく知っている・だいたいの内容は知っている」と回答した人は23.2%にとどまりました。また、「今の日本は人権が尊重されている社会である」と思わない人の割合は50.9%と過半数を占め、前回調査(41.5%)より増加しています。これは、コロナ禍や災害を経験する中で、多くの人が人権問題を自分自身の問題として深く意識する社会状況にあることを示唆しています。
さらに、2021年度の三重県教育委員会による教職員意識調査では、差別に対する自己責任論が広がりつつあることが懸念されています。特に若い教職員ほど「競争社会だから能力による差別は仕方ない」などの考えを否定しきれない傾向が強く表れており、急速な世代交代が進む教育現場では、同和教育の理念と精神をしっかりと継承することが求められています。
近年、社会のあり方を大きく揺るがす出来事が相次ぐ中で、人権や差別の問題があらためて問い直されています。世界各地で続く紛争や戦争は、多くの人々の命と尊厳を脅かすだけでなく、特定の国や民族、出自に対する偏見や排除の意識を生み出し、日常生活の中にも影響を及ぼしています。こうした状況は、平和と人権が決して切り離せないものであることを、私たちに強く示しています。また、インターネットやSNSの急速な普及は、人と人とをつなぐ一方で、その匿名性や拡散性を背景に、差別や偏見を助長する情報が容易に広がる環境を生み出しています。根拠のない情報や偏った言説が、特定の人々や地域に対する誤解や忌避意識を強める事態も見られます。誰もが情報の発信者となり得る時代において、情報を批判的に読み取り、差別を見抜き、適切に向き合う力を育てていくことが、これまで以上に重要となっています。
3年前の県内公立学校教員による部落差別に関わる事案、さらに今年3月に市内で発生した差別落書き事案は、差別が決して過去のものでなく、今なお身近な問題として存在していることを明らかにしました。また、令和4年度「人権問題に関する三重県民意識調査」(以下 、「県民意識調査」)の結果を見ると、住宅購入時に物件(住宅)が同和地区内にあると分かった場合33.7%が「どれだけ条件がよくても買い(借り)たくない」と回答しています。このことは、私たちの心の中にまだまだ根深い差別意識や忌避意識が内在していることを示しているといえます。一方で、「県民意識調査」の結果によると、人権問題に関する研修経験がある人や人権問題に関する法律等の内容をよく理解している人ほど、人権意識が高いことが明らかになっています。このことから、これまで以上に、法律・条例の内容や趣旨を理解し、差別を自分の問題としてとらえ、取り組みを進めていく必要があります。
現在の四同研大会は、部落差別の解消に向けて実践を討議する夏期合宿研修会を継承・発展させたものです。半世紀以上にわたる取り組みが人権・同和教育の認識と意識の向上に寄与してきました。今後も四同研は、互いに語り合い、学び合い、つながる場としての役割を果たしながら、部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消と、すべての人の命が尊重される社会の実現に向けて、人権・同和教育の取り組みを深めていきます。
本年度の四同研大会のサブテーマは「語り合おう つながろう 次の一歩に向けて」です。差別の現実を直視するとき、私たちは時に重さや困難さを感じます。しかし、だからこそ、今ここに集う一人ひとりの力が必要です。かつて水平社創立大会の先人たちは、厳しい状況の中でも「人間の尊厳を守る」という強い思いで団結し、新たな時代を切り開きました。その精神は、今日の私たちにも確かに受け継がれています。四同研大会は、まさにその思いを共有し、つながりを広げ、次の一歩をともに生み出す場です。困難な時代だからこそ、語り合い、学び合い、支え合うことで、「差別のないまち 四日市」の実現へと一緒に歩んでいきましょう。
2 本大会を実りあるものにするために
(1)人権・同和教育の原点である「差別の現実から深く学ぶ」を確かめる
「差別の現実から深く学ぶ」とは、差別に対して自分がどのように関わっているのかを問い直し、内省する営みです。私たちは、部落差別の解消に向けた取り組みを通じて、自身を振り返り、自らの差別意識に気づいたり、自分の経験とは異なるものであることを踏まえつつ、自身のしんどさを手がかりに被差別の方々の経験に想像力を働かせたりして、「差別は自分自身の問題である」という認識を深めてきました。
そのために、私たちは子どもたちや地域の姿を単なる現象として捉えるのではなく、その背景にある課題を探ることを重視してきました。一人ひとりの子どもが学校・家庭・地域でどのような環境の中で育っているのか、保護者の仕事や生活、その中にある願いや思い・悩みを見つめることで、真の課題を見出し、保育・教育の実践を深める必要があります。また、人と人とのつながりを大切にし、互いに尊重し合う人権文化が根付いた地域社会を築いていくことが求められます。
こうした視点を持ちながら、参加者一人ひとりが日々の実践を振り返り、学びを深め、自己の変容へとつなげていきましょう。
(2)部落問題をはじめとするあらゆる人権問題を解決に向けた保育・教育の創造
自他を尊重し合う子どもを育むためには、幼児期から大人が子どもを一人の「人」として尊重し、その存在そのものを大切にすることが必要です。そのような関わりが、子どもたちに「自分を好きになる」力を育みます。さらに、友だちとの関係の中で他者の存在に気づき、自分だけでなく他者も大切にする「共感力」が養われていきます。
この共感力を基盤として、生活体験を通じた気づきをきっかけに人権問題について学ぶことが重要です。私たちは、子どもの学びの過程を重視しながら、身近な人権問題への理解を深めるとともに、子ども自身の意識と人権問題を結びつけて、「おかしい」と感じたことを「おかしい」と言える力を育む必要があります。そのためには、すべての子どもが人権問題を自身の生き方に結びつけられるよう、保育・教育の工夫と創造に努めなければなりません。
これまで私たちは、人権・部落問題学習と並行して、他者の思いを自分ごととして受け止め、共感と信頼を深める仲間づくりに取り組んできました。特に、いじめや経済的・社会的な問題などによる人権侵害が発生した際には、被差別の立場にある子どもの経験や思いをもとに教育課題を明確にし、関係するすべての子どもが問題を共有し、共感と信頼を深めることができるよう努めてきました。このような取り組みによって、子どもたちは「自分はかけがえのない存在である」と認識するとともに、反差別の仲間とのつながりの大切さを実感することができます。
こうした実践の中で、問題の背景を深く理解することの重要性や、子どものかすかなサインを見逃さない感性の大切さを改めて確認し合いましょう。
「保育・教育の創造」の分科会では、10本の報告が予定されています。「部落問題をはじめとするあらゆる人権問題の解決に向けた保育・教育のあり方」をテーマに、自らの実践を振り返りながら、どのように課題へと向き合うべきかを考えていきましょう。
(3)「ともに学び、ともに生きる」教育の推進
私たちは、人権・同和教育の取り組みの中で、「地域で仲間とともに学び、生活したい」という障害のある子どもたちの願いを尊重し、それを実現する教育を大切にしてきました。この取り組みは、外国につながりのある子どもたちが自分らしさを大切にしながら、地域でともに生きることを支援する活動とも深く結びついています。
今後は、部落問題、障害者、外国人、子ども、女性、性的指向・性自認、貧困などに関わる不当な差別の撤廃を目指し、人権が確立された共生社会の実現に向けて取り組んでいく必要があります。そのために、共生を阻んでいる要因を明らかにし、すべての子どもが自分らしさを豊かに表現できる教育内容を創造し、その実践を広げていかなければなりません。
「共生の教育」の分科会では、4本の報告が予定されています。「ともに学び、ともに生きる」教育をどのように創造するか、子どもたちがともに育ち合う場面を振り返り、誰もが自分らしさを発揮できる教育の在り方について考える機会としていきましょう。
(4)自らが学び、「生きる力」を獲得していける教育を創造する
「進路保障は同和教育の総和」と言われてきました。これは、進路保障が単に子どもを社会に送り出すことではなく、一人ひとりの子どもに社会生活を営む上で必要な力をどのように身につけさせるか、そして子どもの未来をどう保障するかを重要な課題としてきたからです。
子どもたちが進路を切り拓いていく際、知識や思考力だけでなく、豊かな表現力や感性、自尊感情、仲間とのつながり、自立した生活を送る力が不可欠であることを、これまでの取り組みの中で確認してきました。そして、複雑で変化の激しい現代社会に向き合うためには、他者や社会との関わりを通して自己を深く見つめ、主体的に判断し、それらを総合的に活用して自らの生き方を切り拓く「生きる力」が必要だと考えます。
しかしながら、現状を見ると、厳しい社会環境や差別を残す社会構造の中で、自分の夢を諦めたり、進学を断念せざるを得なかったりする子どもたちがいるのも事実です。そのため、幼児期から高校までの教育機関、保護者、地域、企業と連携しながら、子どもたちが置かれている状況を把握し、学びを奪われている現実を明らかにしつつ、自己実現へとつながる取り組みを進めていく必要があります。
「進路・学力保障」の分科会では、3本の報告が予定されています。家庭や地域と協力しながら、子どもたちの将来につながる「生きる力」を育むための取り組みについて、これまでの人権・同和教育の成果を検証し、さらに進路・学力保障の取り組みを発展させていく機会にしていきましょう。
(5)人権文化あふれるまちづくりを進める
近年、人と人とのつながりが希薄になり、地域や社会における子育ての連帯意識が低下していると言われています。ヤングケアラーや虐待、DVなどの問題が頻繁に報道される中、孤立した子育て環境を見直し、支え合う社会を築くことが急務となっています。「人権のまちづくり」の本質は、人と人とのつながりを育むことにあります。今こそ、人権・同和教育を地域や社会全体で幅広く展開し、人権に根ざした文化を根付かせることが求められています。
市内各地では、同推(人権)協を中心に、人権問題に関する啓発活動が継続的に進められています。また、市P連、市保連、四同連、人権擁護委員協議会などの社会教育関係団体・機関、さらには企業においても研修会が積極的に開催されています。こうした活動に一人ひとりが積極的に参加し、人権について学び、日常生活の中にあるさまざまな人権問題に気づき、その解決に向けて行動することが大切です。
しかし、社会の中で相対的に優位な立場(社会的マジョリティ)にある場合、不利な立場(社会的マイノリティ)に置かれた人々の経験や状況に気づくことができず、差別問題に関わろうとしなかったり、自らの姿勢を省みるきっかけを持てなかったりすることがあります。その結果、社会には旧来からの偏見や差別意識に加え、情報化やグローバル化の進展に伴う新たな偏見や差別が生じています。一人ひとりが広い視野を持ち、社会構造や文化の中に根付く差別の仕組みに気づくことが重要です。
まずは、人権尊重の観点からさまざまな問題を捉え、研修会などに積極的に参加し、人権について考え続ける習慣を身につけることが求められます。そして、差別をなくすために自分たちに何ができるのかを考え、行動へとつなげていきましょう。
「社会教育」の分科会では、6本の報告が予定されています。参加者一人ひとりが人権問題に対する正しい認識と行動力を培い、互いに人権意識の向上を図る場としましょう。
注) 略記団体の正式名称
・ 同推(人権)協 同和教育(人権教育)推進協議会
・ 市P連 四日市市PTA連絡協議会
・ 市保連 四日市市立保育園連合保護者会
・ 四同連 四日市市各地区人権・同和教育推進協議会等連絡会
(6)同和教育を根底にすえた人権教育の推進
同和教育は「差別の現実から深く学び、生活を高め、未来を保障する教育を確立する」営みです。四同研でも、「部落問題をはじめとするさまざまな人権問題に対する科学的認識を深め、社会の不合理や矛盾に立ち向かっていく力をつけること」「被差別の立場に立たされた人に想いをはせながら、すべての人の人権を保障すること」「くらしを通して連帯しながらなかまづくりをすすめること」を大切にしてきました。
今後も一人ひとりの人権問題への立ち位置を確認し、差別を見抜き、なくしていけるよう、自分ごととしての取組を進められるよう、同和教育を根底にすえた人権教育をさらに発展させていきたいと考えます。
3 おわりに
人権・同和教育の歩みを継承し、さらなる実践へ
四同研は発足以来、市内すべての学校・園、地域、家庭、企業・団体とともに、人権・同和教育を推進してきました。その歩みは、先人たちの努力の積み重ねによるものであり、今、それを受け継ぎ、未来へとつなげる責任が私たちにあります。
今大会に参加した一人ひとりが、子どもたちや地域住民とともに歩んできた経験と実践を大切にしながら、学び合い、高め合う場として、この機会を活かしていきましょう。そして、部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消に向けた主体者として、学んだことを各職場や地域、家庭で積極的に話題にし、ともに語り合いながら、「差別のないまち 四日市」の実現を目指しましょう。